ハロプロ好きの雑記。
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電車に揺られて、現実から遠ざかっていく。
飛び出してきて、揺れる電車の中。
心地の良い振動に身をまかせて。
わたしの隣には、強気で勝気で、だけど弱いあなた。
あなたとわたし以外に見える人の姿といえば、斜め前の座席で酔い潰れて寝ているおじさんだけ。大きないびきが車内に響いてる。
電車の窓から外の景色を眺めた。
現れては消えていく、高層ビルやマンションの、暗闇に浮かんだ眩しいばかりの無数の光。ただでさえそういった目映い光に埋もれてしまうような空の星々は、今日は厚い雲々にも隠されてしまっていて。全く見ることができなかった。
なんだか雨が降りそう。
雨の代わりに隠れた星たちが降ってきたならどれだけ幻想的なんだろう、なんて思いながら、隣にいる大好きな人の手を、そっと握った。
「憂?」
片方だけのイヤホンをした梓ちゃんが、空いてる方の手で目を擦りながら言う。
「…眠たいの?」
「んー…」
その仕草がまるで小さな子供のようで、私も頬を緩ませながら、擦っちゃだめだよ、と言った。するとばつの悪そうな顔をして、素直に目を擦るのをやめてくれた。
でもやっぱり眠いみたい。
うとうと、しぱしぱ。…ずっと繰り返してる。
いつもならおやすみの時間だもんね。今日は準備も忙しかったし、この長旅も彼女を疲れさせる要素のひとつ。
イヤホンから流れる音楽も眠気を誘う。
ジャズが大好きな梓ちゃんがいつも聴いていたこの曲は、いつの間にかわたしのお気に入りにもなっていた。
好みが似てくるんだね。
お互い影響されるんだね。
それは確かにわたしたちが一緒にいた時間の長さを証明していて、胸があたたかくなる。しかし、それでいてぎゅっと締め付けられるような、そんな切なささえもを感じさせた。
ありったけのお小遣いと膨らんだリュックサック、それといつものギターケース。
現実から逃げるようにして家を飛び出してきた。
駅で見上げた路線図の、一番端っこの切符を買った。
名残を惜しむようにして、各駅停車でゆっくり、ゆっくり、もといた場所を離れていく。
そうして、一休みを繰り返しながら、ゆっくりゆっくり、日が暮れて。
そうしたら、なんだか寒くなってきた。梓ちゃんの冷えた手を握り直して言う。
「寒くない?」
「…寒い」
「だよね」
「……だから、もっとぎゅってして」
どきり、とした。
ふいっと窓の方を向いてしまった梓ちゃんも恥ずかしかったのか、耳が真っ赤になっていた。
マフラーに隠れて見えない頬も、すっごく赤くなってるんだろうな。
でもそれはわたしも一緒だから。気づかないふりをして、取れかかった片耳のイヤホンをもう一度入れ直す。
梓ちゃんはすぐこういうことを言う。
言われるのは苦手なくせに、いつもわたしを翻弄して。本当にずるい。
矛盾しすぎてるよって思うけど……でも、そういうところに、惹かれてしまう。
窓の外を風景が流れていくのがゆっくりになって、次の駅が近づいてくる。
ゆっくりゆっくり、一休みを繰り返す各駅停車の普通電車。
それでも停車駅には人はほとんどおらず、ドアも開いたままで、人の代わりに乗り込んできた冷たい風が、火照った肌をそっと撫でた。
冷たい風。
ふと、いつもの熱い夜を思い出す。
彼女の小さな手は、触れられる度に熱くなるわたしの身体には毎度冷たく感じられた。
梓ちゃんはいつもいつも、ゆっくりゆっくり。一休みをしながらわたしに触れてくれる。あたたかいけど、ひんやりとしているその手はわたしに矛盾めいたものを思わせる。
その、矛盾めいた、という言い方はまさしく梓ちゃんの性格を表していた。
梓ちゃんの矛盾について考えると、わたしの胸はいつも苦しくなる。
彼女の矛盾に触れる度、わたしは何度も恋に堕ちてしまう。何度も何度も、本当に飽きないと自分でも思った。それでもやめられない。彼女はそれだけの魅力を持っていたのだから。
突き放したり、甘えたり。熱血なのにどこか冷めてる。可愛いのに格好いい。
そしてその愛らしい笑顔に垣間見える危うげで黒い表情も―――梓ちゃんを構成するすべての矛盾は、わたしを虜にしてしまう。
それはまるで、流れていく景色の中、ずっと存在し続ける真ん丸のお月さまのよう。梓ちゃんはわたしの中で、それだけ大きな存在なんだってこと。
「…梓ちゃん」
思わず名前を呼んだ。
すると梓ちゃんの頭が、わたしの肩にもたれ掛かってきた。
「梓ちゃん。もう寝ちゃうの?」
問いかけて、返事の代わりに返ってきたのは「んぅ…」なんて唸り声。
そして梓ちゃんの体温。
相変わらず握っている手は冷たいままだったのに。こんなにもあたたかいなんて。
その矛盾が愛しくて堪らなくて。心が掻き乱されていく。
「梓ちゃん…」
呼んでも、もう返事は返ってこない。
手を握り直す。絡めた指先。堅くなった梓ちゃんの指。周りに人がいなくてよかった。指先に梓ちゃんらしさを見出だして、こんなにも笑顔になってしまうから。ひとりで笑って、バカみたい。
「……本当、バカみたいだね」
こんなところまで電車に乗ってきたこと自体が。
ゆっくりゆっくり、一休みを繰り返してきたのなら、引き返すチャンスはあったはずなのに。
矛盾に魅せられ、こんなところまできてしまった。
……ゆっくり、ゆっくり。
梓ちゃんにのめりこんで、いつの間にか毒されていたんだ。
お姉ちゃんや軽音部のみなさんが言うみたいに、わたしはおかしいのかもしれない。それでも、理解したくなかった。
意地だった。だから逃げてきた。認めたくなかった。
ゆっくり、ゆっくり、お姉ちゃんたちに怪しまれていたなんて。
ゆっくり、ゆっくり、周りのみんなが離れていっていたなんて。
電車に揺られて、ふたりだけの世界に。煩わしいものから、大好きなものから、ゆっくり、ゆっくり、一休みしながら、離れていく。
今のわたしには梓ちゃんだけいればいい、なんて言ったなら、余計におかしいって言われてしまうのかもしれないけれど。
―――気がついたら、睫毛の長い梓ちゃんの猫みたいな瞳が、薄く開いたままぼうっとわたしを見つめていた。
胸が壊れそうなくらいに大きく高鳴る。その可愛らしい、そしてどこか影を落とす梓ちゃんの顔に――――ほら、その矛盾に見惚れてしまう。
「…ねえ、憂」
「…なぁに?」
「雨が、降ってきたね」
「雨…?」
「うん」
わたしを見つめ続ける視線をかわし窓の外を見ると、言う通りに雨が降っている。
「…ね?」
「うん……」
何となく彼女に視線を戻すのが憚られて、意味もなく窓の外を見続けていた。
「…憂。雨ばっかり見てて楽しい?」
拗ねた声色に返事が出来なくて、代わりに手を握り直した。
「……雨ばっかり、見てないでよ」
服をぐいっと引っ張られて、梓ちゃんの顔が息が掛かるくらいに近づいた。
わたしは梓ちゃんの変化ぶりにただただ驚くしかなく、何も出来なかった。
…さっきまで子供のように振る舞ってたのに、急に大人な振る舞いになる。
―――矛盾。
わたしが愛してやまないもの。
唇が、後数センチでくっつく。
「憂が見なきゃいけないのは雨じゃないでしょ?」
囁かれて、息を止めた。
にやりと笑った梓ちゃんはそのまま一度唇を重ねると、今度はゆるく開いてわたしの唇を食む。
冷たい唇、熱い粘膜。矛盾。
ここにもわたしを堕とす要素がある。梓ちゃんはやっぱりずるいな、と思った。
「わたししか見ちゃだめだよ。そのためにここまで来たんだから」
自信ありげに言う梓ちゃんに、わたしはゆっくり、ゆっくりと口付ける。そんなこと言われなくても、最初から梓ちゃんしか見えてないよ。そう返すと、彼女は顔を真っ赤にしてくれた。
―――ゆっくり、ゆっくり、各駅停車。
こうしてわたしたちは、現実から離れていく。それでもいい。
待ち受けるものが例え矛盾だらけだったとしても、今のわたしは梓ちゃんの矛盾しか認めない。そう決めたんだ。
矛盾だらけの世界にさよならをして、わたしは梓ちゃんの体温に溺れていった。
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