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ハロプロ好きの雑記。
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二人が死ぬ話。
BGMはレディへ。



夜の部室に梓ちゃんとふたりきり。

相棒の真っ赤なムスタングをアンプに繋いで、梓ちゃんは最後のライブをする。
観客は私だけ。…いや、私だけじゃないか。私と録音中のボイスレコーダー。
演奏してくれるのは梓ちゃんが大好きなあの曲で、今の私たちにはピッタリだと思った。それを梓ちゃんはムスタングで切なく奏で上げる。

こんな夜中に学校に忍び込んだ私たち。夜の学校は静まり返っていて、人気なんかない。
梓ちゃんの歌声とギターの音以外には何の音もしないからまるでこの世に二人だけみたい。うわ、それ凄く良いな。本当に梓ちゃんと二人きりだったら、こんな事も無かったのにね。
みんなに歓迎されなかった私たちは、こうして二人でいることを選んだ。
遠く遠く、誰も何も言わない自由な世界へ、梓ちゃんに連れていって貰うことにしたんだ。

これからどうなるんだろうね、お姉ちゃんを置いて家を出てきて、こんなところで梓ちゃんとふたりきり。
訳のわからない幸福感が私の心を満たしていく。
明日から、この世界はどうなるんだろう。1週間前に席替えをして、私と梓ちゃんは席が隣同士だからいないとすごく目立つだろうな。
でもまあいっか。幸せだから、いいか。
それに、お花が並んだら、きっと綺麗だろうし。


   僕はここにいない。
   これは現実じゃない。
   僕はここにいない。
   僕はここにいない。


英語でそう歌い上げた。切なく響く梓ちゃんの声。そう。もういなくなっちゃうんだもんね。
結ばれた途端に、元いた世界に異端だと拒絶されて、二人きりの世界に逃げ出してきて、もう私たちは幽霊も同然だから。生きてる、なんてもういえないの。

やがて梓ちゃんは演奏し終え、ふうっと溜め息をついた。私は梓ちゃんに紅茶とお菓子を出す。手作りのクッキー。
もう最後だもん、たくさん食べてね。自信作だよって、最後のティータイムを楽しんだら、持ってきたレコーダーに“犯行声明”を残す。

「…中野梓です。趣味はバンドをやること、眠る事、それから悩む事……」

淡々と梓ちゃんは遺言という名の犯行声明を遺していく。血も涙もない。
私たちは犯罪者で、これから消えるだけなんだから。未練とか、そんなのはこれっぽっちも無かった。私たちはただ二人きりになりたい、それだけだったから。

「…憂を誘拐する事にしました。唯先輩ごめんなさい。…―――」
「お姉ちゃん大好きだったよ。ごめんね。私、梓ちゃんに誘拐されるの。凄いでしょ。こんな世界から離れたところでね、梓ちゃんと二人きりで、ずっと―――」


――――

やる事を終えてしまうと、ソファーに並んで座って、梓ちゃんと楽しくお喋り。

「私、ギター弾いてるの好きなんだ」
「うん、私もギター弾いてる梓ちゃんが好きだよ」
「ほんとに?」
「うん。誰よりもかっこいい。梓ちゃんの彼女でいるのが誇らしいもん」
「私は私を好きな憂が好きだよ」
「ありがとう。私はそんな梓ちゃんが好きだよ」

きりがないねって、へへ、といつもの調子で笑われてこんな異常な空間の中で拍子抜けしてしまう。何故か今の梓ちゃんは凄くご機嫌だ。
まさか、と思って梓ちゃんのポケットを探ると、やっぱり。危ない粉の入った小さなビニール袋が出てきた。
…本当に梓ちゃんは、生真面目にも嵌まるものにはとことん嵌まる性格らしい。何度私が少しは控えなよと言ったって、梓ちゃんは聞いてくれない。この生きにくい世界に嫌気がさしたら、そしたらもう自分の身体なんかどうでも良くなってしまう気持ちは分かるけど、やっぱりいけない事はいけない。
それでも今日はもういいの。楽しむためのお薬じゃないもんね。

「憂。もういこうか」
「――あ、っ……」

ビニール袋をひったくられて、呆気に取られている間にはもう、その中身は梓ちゃんの口の中へと真っ逆さま。
純度100%のそれはたったの耳かき1さじ分を水に溶かして注射するだけで充分にトべる代物だ。そんなにいっぺんに食べたら間違いなく。

「ういー…」
「…梓ちゃんだけ先にいくなんて駄目だよー?」
「ん…わかってるよ」

暫くして、梓ちゃんの体の力が抜けてずる、とずれて私に寄り掛かる。動けない私に彼女はふわりと笑い掛けた。そしてすぐに触れ合う唇。割り入ってくる舌。
流れてくる粉は自分の舌の上でしゅわしゅわと音を立てた。……苦い。

「…、ん、憂、っ」
「あず、さちゃ、……」

ちゅ、とわざと音を立てて離れた梓ちゃんの濡れた唇。
虚ろな瞳と目が合った。
猫みたいな梓ちゃんの頭を撫でようとしたけれど、腕があがらなかった。
落ちる。
最後の瞬間に、手を繋いだ。

あずさちゃん、
いっしょだから、うれしいね。
あたまがぼんやりして、
、………。

………だいすき。






==========

部室のソファーで、二人は眠っていて。
机の上には、小さな透明の袋と食べ掛けのクッキーにティーカップ。それとボイスレコーダーが無造作に置かれていた。
私はそれを再生する。


“…中野梓です。趣味はバンドをやること、眠る事、それから悩む事。私は今から、犯行声明を遺したいと思います。
突然ですが…憂を誘拐する事にしました。私と憂は消えます。
皆さんの前から完全に失踪する方法など、これしか思い付きませんでした。唯先輩ごめんなさい。大好きな妹は私が連れていきます。
私、唯先輩に憧れてました。あんなにギターを楽しそうに弾く人、初めて見たから。唯先輩には酷い事しますが、唯先輩が嫌いだった訳じゃないです。どうか許してください。

平沢憂です。お姉ちゃん…大好きだったよ。
ごめんね。私、梓ちゃんに誘拐されるの。凄いでしょ。こんな世界から離れたところでね、梓ちゃんと二人きりで、ずっとずーっと。
お姉ちゃんをひとりにしてごめんね。簡単なレシピをノートに書いておいたから、それでご飯を作って食べてね。

バンドができて、たのしかったです。お姉ちゃんの妹でよかったです。唯先輩。放課後ティータイムでよかったです。純、いつもありがとう。律先輩、純ちゃん、澪先輩、ムギ先輩、和ちゃん、ごめんね。お姉ちゃん。皆さん。本当に本当に、ありがとうございました。
ただ、わかって欲しかった。私たちを理解してくれていたら、きっとこんな風にはならなかった。私たちを引き離してこの気持ちを排除しようとするのなら。
私たちはあなたたちの望むように、こちらから失踪してみせましょう。私たちは皆さんの及ばないところへ、二人きりで、どこまでも、どこまでも。

さようなら。”



“完全に失踪する方法”。

実践して眠りについた彼女らは、もうとっくに私たちでは決して辿り着けないところまで行ってしまった。
…どうしてわかってあげられなかったんだろう。なんてもう後悔しても遅い。

息を切らして部室に入ってきた仲間たちに振り返って、私は言った。


「…憂とあずにゃん、死んじゃった」







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