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ハロプロ好きの雑記。
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端的に言うと捕まるまでの二人。

優しさといとおしさが飽和した寝室の天井は、灯りを灯さなくても煤で汚れているのがわかる。
ベッドに横たわるわたしは、大切なひとの愛撫を受けながら、それをぼうっと見上げていた。

わたしの上に覆いかぶさる梓ちゃんが不思議そうに天井を見上げるから、わたしは何でもないよと言って笑いかけた。
すると梓ちゃんもぎこちなく微笑んでくれるから、わたしの胸は幸せで満たされる。


ーーーー忌々しい、あの天井の煤さえ無ければよかった。


そうしたら、まだまだ一緒にいられたはず。

今更後悔するのは遅いと、夜の冷たい空気が、知りたくもないのに厭と言うほどわたしに教えてくれる。もう少しでお別れなんて、理解したくなかった。


「…っ、ぁ……!」

突然、鋭くて心地の好い刺激がわたしの身体を襲った。わたしの反応を見て梓ちゃんは愉快そうに口角を上げた。

「憂はこうされるのが好きだね」

経験。
それは連れ添ってきた経験をぴったり表す言葉だった。わたしが悦ぶ場所は知り尽くされている。
どこをどうしたら"いい"のか、彼女の頭にはすっかりインプットされていた。昔作った曲を忘れても、わたしのことは忘れないでいてくれる梓ちゃんがわたしは大好きだった。

どんなに怠くても。どんなに辛くても、わたしのことだけはしっかりしてくれていた。
周りからは狂ってるって思われてたかもしれないけど、本当は梓ちゃんという人はきちんと分別つけてるんだってこと。

天井の黒い煤。その存在が今まで、わたしたちの日常にどれだけ影を落としてきたことだろう。

あるはずのないもの。
狂気の沙汰。

"解毒"をするためだけの電子レンジ。洗面台の歯ブラシ立てに歯ブラシに混じって立てられた注射器。吐くための洗面器。アルミホイル。使い古された薬さじ。ショットガン。ギター。猫。

梓ちゃんが好んで使っていたもの全てが、わたしたちを引き裂く犯人だった。

「うい…?」

自ら進んで狂気に身を投じた本人は、その運命がいよいよ悲惨な方向に傾きかけていることも知らず、子供みたいな顔でじっとこちらを見つめてくる。わたしはやっと笑いかけ、だいじょうぶだよ、と伝えた。

…遠くから、サイレンの音が近づいてくる。
お別れの音、梓ちゃんの転落。

運命。堕落。墜落。落ちる。堕ちる。
キャリアも楽しかった日々も、全部奈落へと堕ちて失くなってしまう。

明日の朝には、ニュースになっているだろう。
騒々しい世間が、梓ちゃんを憐れむだろう。

確実に終わりは近づいてきていた。それなのに、わたしの身体に夢中になっている梓ちゃんにはまるでその音が聞こえていないようだった。


聞こえなくていい、
夢中になって。甘えさせて。

「…うい、」

思い出したようにわたしの名前を口にする。

「……なあに?」
「なんか違う」
「違う?」
「うん…憂、いつもとちがう」
「そうかな」
「うん…」

そうして、首筋に顔を埋めた。
ざらざらの、猫みたいな舌先が肌を撫ぜるたび、心もくすぐったい。
ずっとこうされていたい。確かにいまわたしは梓ちゃんの腕の中で、確かにいま、わたしは梓ちゃんに求められていた。

求愛。梓ちゃんはわたしに、たくさんの愛情を求めていた。薬では空虚な幸せしか得られなかったから、それを埋めたくて、ひたすらにもがいていた。

あの時、梓ちゃんは放課後ティータイムとしての自分だけを見失ったわけじゃない。…もっと大切なことを。人間にとって何より大切なものを手放してしまったんだ。

わたしは梓ちゃんの寂しさを埋めてあげられたかな。たくさんの愛情を、伝えてあげられたかな。


タイムリミット。

ーーーーいよいよ、サイレンが近づいてくる。
さすがの梓ちゃんもお別れに気付いたみたいだ。

「…外、騒がしいね。警察?」
「何も聞こえないよ?」
「もしかして、わたしを捕まえにきたかな」
「違うよ」
「…ねえ憂、もしーーー」

心配そうに言葉を紡ぐ梓ちゃんの両耳に、掌を押し当てた。


「もう何も聞こえないよ。…ねえ、触って?」

ようやく頷いてくれた梓ちゃんを抱き締めた。


ーーー近づいてくる。

「ん…あずさ、ちゃん……」
「うい、うい……」

サイレンが止んだ。
戻る静寂。
タイムリミット。
全てが、終わる。

「ねえ、離さないで…もっと、ぎゅってしてて」
「うん…、」

引き裂かれても、寂しくないように。

お願いだから、今だけは。

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